空歌童心

母が不妊治療をしていた話はよく聞いた。
だから、私はそれを調べて……調べれば調べるほど、自分がその結果ではなくてよかったと思った。

母が不妊治療の結果得たのは『血圧0（計れない）経験』と『卵巣摘出経験』だった。
不妊治療の結果、子供を得ることはなかった。

そもそも、当時（小学生の時）から気持ち悪いとさえ思っていた。
そこまでして子供が欲しいという気持ちも、そこまでして子供を得なければいけない社会も気持ち悪い。

そして何より不自然だと思っていたし、子供の意思がそこには全くないと思っていた。



が、それを実証するだけの情報もなく。
不妊治療なんて不自然だ……と言えば、『あなたは不妊治療をした母親の気持ちが分からない』なんて見知らぬ人からコメントも来た。
それはそのまま「不妊治療で生まれた子供の気持ちがあなたに分かるのか？？」という事になるのだけれども、治療中の方みたいだったのでやめた。
傷口に塩をぬりたいわけではない。





私は、不妊治療の結果産まれた子供たちの意見を見たかったが、中々なかった。
聞かされてないのか、気にしないのか、よく判らなかった。



ある時、とあるサイトで
『自分が不妊治療の結果産まれたと知った。ショックだった。自分は不妊治療なんてしない』といったような文面を見かけた。
私の中ではやっと見つけた……と思ったのだが、それについているコメントたちは最悪だった。




：母親はそこまでしてあなたを欲しかったんだ。
：大切に育てられたんでしょう。感謝しなさい。
：あなたも親になればわかる。



それを見て、やっと理解した。
私についたコメントと同じものが、当事者の苦痛の言葉にもくっついてくるのだ。
本気で悩み苦しんでる人間に『親の愛情があれば大丈夫』なんて愚かな言葉をかける人間たちがいるのだ。
いや。ほとんどがそんな人間なのだと。


だから当事者たちも声を上げない。
実際にこのトピックはしばらくしたら消えていた。




不妊治療では『母親の気持ち』しか優先されない。
産まれた子供がどう思うかはどうでもいいのだ。
家族になれば……愛情さえかければ、子供は苦痛を感じることはない……

そんなバカげた幻影がまかり通っているのだと思うと欝々とした気分になった。